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AI時代をどう生き抜くか | Hippocampus's Garden

AI時代をどう生き抜くか

December 31, 2024  |  11 min read  |  3,207 views

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年末年始は、自分のキャリアをじっくり見つめ直す良い機会です。個人的にはエンジニアとして、「自分の仕事はいつまで続くだろうか」という疑問を避けて通ることはできません。この記事では、ここ数年私が考えてきたことをまとめ、未来に向けてどのようにキャリアを築くべきかを探ります。

本編に入る前に自己紹介を少し。私は2018年、修士1年生の頃にAIの可能性に魅了されて以来、ずっとAIの進化を追ってきました。現在はカスタマーサポート向けのチャットボットを開発するAIエンジニアとして働いています。学生時代は「将来、労働が必要ない社会が来るかもしれない」などとナイーブなことを言っては周囲にたしなめられていましたが、会社で働いたり、さまざまな人と議論したり、OpenAI o1など最新のAIに触れたりする中で、もう少し現実的な未来像が見えてきました。

2030年までに激変する仕事

話を単純にするために、2030年までのAIの進化がこれまでと同じペースで進むと仮定します。この未来では、Cognition AIのDevinに代表されるようなAIエージェント、ただし今よりももっと高性能なものがさまざまな業界で活躍しています。なお、AGI(汎用人工知能)が登場する可能性については後のセクションで簡単に触れます。

情報処理に特化した仕事は大幅に自動化される

すでに変化が見え始めているように、情報処理に特化した仕事は大幅に自動化されます。たとえば、「与えられた仕様に基づいて関数を書く」「データを集計する」といった仕事は、いかなる専門知識が必要であろうとも究極的には情報処理なので、AIに代替される可能性が高いです。

現在のAIは情報処理が中心で、チャット画面の外ではまだまだ人間の介入が必要です(例:集計結果を適切な場所に保存して上司に報告する)。しかし、これは技術的に不可能なわけではなく、単にAIにその権限が付与されていないだけです。AIの活用が広まるにつれ、そしてAIエージェントやその周辺エコシステムが発展するにつれ、こうしたタスクも完全に任せられる時代が来るでしょう。将来的には、「このKPIを伸ばすためにどんな機能を追加すればいいか考え、いくつかの機能を作ってテストし、うまくいったものだけを採用して」といったプロンプトを渡すだけで、プロダクトに新機能を追加することも可能になると考えられます。

意思決定は「人間の仕事」とよく言われますが、これも詰まるところは情報処理です。特にリスクが小さくコストが低い意思決定から順に、AIに任せられるようになると私は考えます。たとえば、「議事録を書く」という仕事にも細かな意思決定が多数含まれていますが、リスクが低いため現在ではAIに任されています。利用実績が増えるにつれ、より大きなリスクを伴う意思決定もAIに移行していくでしょう。「生成結果をレビューするのは人間の仕事」という意見についても同様です。

そうなってくると、これまでジュニア職種や外注に任せていたような労働集約的な情報処理の仕事はどんどん減少します。具体例を挙げると、エンジニアの仕事では、新入社員にスコープと仕様が明確化されたタスクを割り当てるのが通例ですが、こういった仕事は近い将来AIに完全に任せられるようになるでしょう。オフショア開発も激減するはずです。カスタマーサポートもいい例です。勤務先で私が開発しているチャットボットは、しばしば外注先の人間よりも良い回答を返します。しかも1分以内に。これはコンサルタントであろうとプロダクトマネージャーであろうと、あらゆる情報処理の仕事に共通する現象だと言えるでしょう。

クリエイティブな仕事も例外ではありません。自分の名前で作品を売っているようなプロは代替不可能ですが、例えばWeb広告向けのイラスト制作や作曲の仕事は減っていくでしょう。勤務先の会社でも、マーケターがAIを利用して自らWeb広告のクリエイティブを作成するのが当たり前になっています。

ただし、ジュニア社員を教育する余裕のある企業では、教育目的でそのような仕事を一定数残す場合もあるでしょう。

10人でユニコーン企業を作れる時代に

AIへの業務委譲を進めることで、企業は少人数での運営が可能になります。必要最低限のメンバーを揃えれば、10人以下でも数億円の売り上げを立てられる――そんな企業が登場しても不思議ではありません。特に、SaaS領域はこの改革と相性がいいと思います。

私の勤務先でも、ここまでの過激さではないものの、AIを部門問わずに活用することで、社員数を大幅に増やすことなくビジネスをスケールさせることに成功しています。このような企業の強みは、コスト効率とスピードにあります。具体的には、人件費を圧倒的に削減できるため、他社よりも低価格でサービスを提供することが可能です。また、通常であればビジネスが大きくなるほど意思決定のスピードが遅くなりますが、組織を巨大化させなければ迅速な意思決定を維持できます。高速にイテレーションを回せる会社は成功確率が高いです。

もしこの方向で起業を考えるのであれば、労働集約的な情報処理が大部分を占めている会社の顧客を奪いにいくようなビジネスモデルを検討すると良いでしょう。こういった仕事は、しばしば高給取りが担っているため、AIを活用することで圧倒的な価格優位性を作れる可能性が高いです。

変化の少ない仕事

一方で、AIが進化しても大きく変わらない仕事も相当数存在します。このセクションでは、そうした仕事を4つのカテゴリに分けて紹介します。

ロボット化が難しい領域の肉体労働

2013年にCarl B. Freyが発表した論文で、「低賃金で学位を必要としない仕事ほど代替リスクが高い」という考え方が広まりました。しかし、現在の視点で予測をし直すなら、私は逆に賭けます。これまでに述べたように、多くの「情報処理」の仕事は高賃金で学位を必要とするものが多く、むしろそちらの方がAIによって代替されやすいからです。

深層学習の驚くべき進化により、2013年当時は想像もつかなかったレベルで情報処理が「代替可能な仕事」となっています。しかし、ロボットには多くの「実用化までの崖」が存在します。

  • ロボットは現実世界と継続的に相互作用する必要があるため、大量の静的データで学習する従来の機械学習手法をそのまま適用できません(頭を動かせば見えるものが変わる)。
  • シミュレータでうまく動いても、実機では同じように動作するとは限りません。そして、実機でのテストには桁違いの時間とコストがかかります。
  • 大型ロボットを人間の近くで動作させるのには安全上の問題があります。
    • 例:工場で使用されるロボットは通常運転中に人が近づけないようになっています。
  • 仮にロボットが技術的に成功しても、製造やメンテナンスにかかるコストが高すぎて普及しない可能性があります。
    • 例:食品工場ではロボットが導入されていますが、大きさやコストの問題でレストランや家庭には普及していません。
    • 例:ロボット掃除機のルンバは2002年に発売されましたが、日本でのロボット掃除機(安いもので3万円程度)の普及率は10〜15%程度にとどまっています。

このような背景から、ロボット化が難しい肉体労働は依然として人間が担い続ける必要があります。このカテゴリに当てはまる仕事は多数存在しますが、中でも料理人は代替が難しい職業の一つです。視聴覚と異なり人間の味覚、嗅覚、触覚をデジタル信号に変換するのは困難である上、料理には臨機応変な手作業が求められるからです。

人がやることに本質的価値がある仕事

人間でなければ価値を提供できない仕事も多くあります。例えば、政治家は民主主義が続く限り人間である必要があります。また、アスリートも人間でなければ意味がありません。

このカテゴリに当てはまる仕事は案外多いものです。『ブルシット・ジョブ』の「ドアマン」の話をご存知でしょうか。ドアの開閉は数十年前に自動化されていますが、ドアマンが提供する価値はドアの開閉そのものではありません。「自分は他人にドアを開け閉めしてもらえる偉い身分なんだ」と言う優越感です。これは人間でなければ提供できない価値です。同様に、高級レストランのウェイターが配膳ロボットに置き換えられることはなく、接待もAIに任せることはできません。

AIを活用しても効率化しづらい仕事

AIを活用しても効率化しづらい仕事は、当然AIによる影響を受けにくいです。

AIがどれだけ賢くなったとしても、物理法則を捻じ曲げることはできないので、建設工事や通勤や作物の栽培にかかる時間やコストが10分の1になるといったことは起きないでしょう。こういった領域では、AIを導入するメリットが相対的に弱く感じられるかもしれません。

また、何をするのにも稟議が必要な組織では、AIを導入してもアウトプットの量はさほど変わらないかもしれません。そのような組織では仕事の自動化は進まず、AIによる影響を受けにくいでしょう。ただし、そういった民間企業は長期的に競争力が低下し、結果として倒産する可能性が高いことには注意が必要です。

効率化への圧力を受けない仕事

そもそも効率化への圧力がなければ、わざわざAIを導入して仕事を自動化する理由はありません。例えば、役所の仕事はそのほとんどが情報処理ですが、民間企業と比べてAIによる影響を受けにくいでしょう。

AI時代をどう生き抜くか

AIによって変わる仕事と変わらない仕事を対比してみると、AIの影響を受ける仕事に就いている人たちが、この時代をいかにして生き抜くかについて考えるヒントが見えてきます。

まず、AIを使って生産性を向上させることは資本主義社会において当然の要請であり、むしろ生産性が向上していない個人や企業は危機感を持つべきです。AIという道具は競合にも等しく与えられているので、AI活用はオプショナルなものではなく、競争を生き抜くために必要なことです。AI導入に積極的ではない企業では引き続き雇用が維持されるかもしれませんが、そういった企業は競争力の低下が必至です。

それから、「意思決定をする仕事」や「AIの生成結果に責任を持つ仕事」が将来的に雇用を守れるほど残るとは考えにくいです。上で議論したように、これらの仕事は徐々にAIによって代替されていくでしょう。さらに、こういった仕事が新たな雇用を生むことも期待できません。経営レベルの人が重要な意思決定のすべてを担ってしまえば、それ以下の社員に残される仕事はほとんどなくなるからです。

このような背景を考えると、個人としては徐々に職掌を広げ、最終的には「仕事を作れる人」になることが求められると思います。情報処理の仕事がAIに任せられるようになるということは、これまで数人でやっていた仕事をAIの支援によって1人で完遂できるようになるべきだということを意味します。例えば、エンジニアであれば、直属のチームで行っている業務を一人で受け負い、フルスタックエンジニアやプロダクトマネージャーのような役割を果たせるようになることが目標となるでしょう。私自身、ChatGPTの登場以降、「機械学習に関する仕事をする人」からよりフルスタックな仕事をするようになり、(他の要因も多数あるとはいえ)ビジネスへの貢献度が大幅に向上しました。これはAIの補助なしでは成し得なかったことでもあり、AI時代の働き方の変化としていい例になったと感じています。また、アーティストであれば、バックオフィスを自動化して制作会社を1人で運営したり、アニメーションなど現在は1人で作ることが困難なものを1人で作るといったことが目標となるでしょう。

「仕事を作れる人」になるためには、多様な人脈を確保しておくことも重要だと思います。特にIT業界以外との接点がより重要になるでしょう。

とはいえ、私個人としてはコードを書く仕事が好きなのであり、「仕事を作れる人」に求められるような仕事は自分のコンフォートゾーンの遥か外にあります。この記事を読んでいるエンジニアにも同じ考えの人がいるのではないでしょうか。そのような場合は、待遇や労働環境が悪化する可能性があるものの、AIの活用が遅れている他業界に目を向けるのも一つの選択肢です。

AGIが到来するシナリオ

AGIが実現可能かどうか、また実現するとしたらそれが何年後になるのかを断言することは難しいです。しかし、自身のキャリアプランや資産運用プランを考える上で、AGI到来シナリオを視野に入れることは重要だと思います。

もしAGIが実現すれば、「2030年までに激変する仕事」で挙げた仕事は「減る」という段階を超え、「ほぼゼロになる」可能性があります。他にも、予測不可能なイノベーションが多数生まれるかもしれません。とはいえ、それが現実になるまでには、AGIをあらゆる分野で使おうという社会的合意形成の問題や、ベーシックインカムのような社会制度の大改革が必要になるため、実現から完全な普及までには相当な時間的猶予があると私は考えます。

さらに、ドアマンのような「人間ならでは」の仕事が増え、結果的に失業率が下がらない可能性も十分に考えられます。実際、技術革新によって新たな職種が生まれることは歴史的にも証明されています。

エンジニアである私にとってAGIは大きな脅威であるわけですが、現時点では以下の心構えで臨むことにしています:

  • 資産形成をしてリスクをコントロールする
  • 本ブログで書いたように、キャリア戦略を時々見直して生き残れるようにする
  • 多様な人脈を育む(苦手分野です)
  • ストレスを感じすぎてもいけないので、それ以外の時は、『自分が失業する時は周りも失業する時だ』くらいの気楽さで生きる

おわりに

本記事では、今後5年程度の未来を見据え、急速に変化する仕事と変わらない仕事を対比しながら、AI時代を生き抜くための方法について議論しました。もちろん私は労働市場の専門家ではありませんし、未来予測という性質上、本記事の内容に同意しない方もいらっしゃることでしょう。異論・反論も大歓迎ですので、皆さんの感想や生存戦略をぜひお聞かせください。


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Written by Shion Honda. If you like this, please share!

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