『デュアルキャリア・カップル』を読んで夫婦で話したこと
February 03, 2024 | 6 min read | 1,404 views
最近、『デュアルキャリア・カップル ―― 仕事と人生の3つの転換期を対話で乗り越える』(Jennifer Petriglieri 著、高山 真由美 訳、英治出版、2022年)を妻1と一緒に読んで、「転換期」を乗り越えるために価値観・限界・不安に関する対話をしました。本記事では、同じような悩みを抱えている方ともこういう話ができるといいなという希望を込めつつ、話したことや考えたことについて書きます。
共働きカップルとして抱える不安、そして本との出会い
2023年8月に、生まれてから28年暮らした日本を離れてパリに引っ越してきました。パリに引っ越した直接的な理由は、妻の大学院進学への帯同でした。人生の中でも指折りの大きな転機に様々な不安が湧きましたが、「いつか海外で働いてみたい」という夢があったので、後先のことは深く考えず、かなり楽観的に移住を決めました2。結果的に、これは互いにとって非常に良い選択でした。妻は大学院に行くという夢を叶えることができ、私は新しい仕事を楽しんでいます。
しかし同時に、今後の転機でも同じようにうまくいくとは限らないな、と不安も感じました。今後は子供を持ったり、日本に帰ったり、あるいは別の国に住んだりといった転機があり得ます。そのとき、一人なら自由に決められることでも、共働きカップルだと、パズルのピースを上手にはめていくような難しさが発生するでしょう。自分の上の世代のカップルを見ても、二人で海外移住を伴うキャリアを積みながら関係も育てていくということを成功させている知人がおらず、参考にできる情報がほどんどありません3。そんなときに『デュアルキャリア・カップル』の存在を知り、来たる転機に備えて妻と輪読をすることにしました。
『デュアルキャリア・カップル』
『デュアルキャリア・カップル』は、INSEADの准教授である著者が、26歳から63歳まで日本を含む32ヵ国113組のカップルを調査して得た知見を、実際のエピソードとともにまとめた本です。英治出版が第1章と日本語版序文を公開しているので、より詳しい紹介はこちらをご参照ください。
本書では、デュアルキャリア・カップルは3つの共通する転換期を経験するとし、転換期とその乗り越え方を提示しています。
- 第一の転換期は、個々のキャリアを追求する段階から互いに支え合う段階への移行を指し、大抵は仕事の大きなチャンスか子供の誕生によって引き起こされます
- 第二の転換期では、個々の価値観や望みを明確にし、世間の期待からの解放を求めます
- 第三の転換期は、これまでの成功と将来の可能性をバランスさせながら、関係性やアイデンティティを再評価する時期です
それぞれの転換期をうまく乗り越えると、互いのキャリアを成功させるだけではなく、二人の関係性が一層深くなります。そのため、本書では各転換期を妥協や折り合いではなく、プラスサムに転化しうる機会として捉えるべきだとしています。そして、その転化を成功させる鍵は心理的安全性と対話の姿勢であるとしています。
価値観・限界・不安について対話したこと
本書で提案されている枠組みに当てはめると、私たちはちょうど第一の転換期を無事乗り越えたところにいます。しかし、本書が「対話」の具体的な中身として提案している「価値観・限界・不安についてオープンな議論を経て協定を作る」ことはできていなかったので、次の転機に備えて実践してみました。具体的には、子供ができたらどういう親になりたいか、週に最低何時間を相手と過ごしたいか、家庭や仕事についてどんな不安があるかといったことを話し合いました。以下に、話し合ったことを公開できる範囲でまとめます。
- 価値観
- 共通
- 社会のダイナミクスを感じる仕事をつづけたい
- 長期的な経済便益により意思決定する(例:家事外注は積極的にする)
- 子どもの羽を折らない親になりたい
- 夫
- 楽しく働きつづけたい
- 育休は積極的にとる(3ヶ月程度が望ましいが、それ以上は要相談)
- 妻
- 社会貢献が実感できる仕事をしたい
- ゆくゆくは管理職を目指したい
- 限界
- 共通
- 仕事のブランクは設けたくない
- 別居は不可(長くても1ヶ月)
- ワンオペ育児は不可
- 夫
- 自分の残業は1時間程度
- 妻の残業は2-3時間まで許容
- 妻
- 定期的にぼんやりする時間が必要
- 不安
- 共通
- 妻のがんばりすぎ
- 夫(特になし)
- 妻
- 家庭とキャリアの両立
感想など
「価値観」についてはよく話題にしていたのでお互い共有できていましたが、限界や不安について明示的に考えることは相手のことをより深く理解するのに役立ちました。本でも書かれている通り、この対話は「協定を作る」というゴールそのものよりも「相手のことをよく理解する、理解しようとする」という過程の方に意義があると感じます。その姿勢さえあれば、多くの問題は対話と調整によって解決可能だと思っています。
また、本の中では多数の事例が紹介されており、失敗例を先回りして学べました。また、ロールモデルは女性の社会進出がより進んでいる欧米に求めると良さそうだということもわかりました。
実は本書から私が得た新しい学びは以上で、それ以外は既に実践できている内容でした。その中でも、特に共感した点が2つあったので上記に加えて紹介します。一つは、転換期における意思決定で経済的な視点や短期的な視点に頼りすぎる傾向に対する警鐘です。本の中では、母親の収入が子供の保育費用よりも低いので、母親が仕事を辞めて子育てに専念するという例が挙げられていました。この選択は経済的・短期的には合理的に思えますが、そのためにキャリアを中断することが幸福に繋がるとは限りませんし、長期的には経済的に損をするかもしれません。しかし、実際にこのような局面に遭遇すると、目の前の問題を片付けるために仕事を辞めてしまい、後で後悔する母親が多いそうです。こういったときこそ、何を大事にしたいか、何なら犠牲にできるか、何はお金で解決できるのか、といったことを考えて納得のいく結論を出したいものです。
もう一つは、困難を二人の成長や関係強化のための機会だと捉える「成長型マインドセット」です。「パートナーは何も言わなくてもわかってくれているはず」と甘えるのではなく、関係を良くするための努力(感謝を伝える、問題について話し合うなど)を怠らないようにすべきだとしています。これは、普段の生活でも重要ですし、転換期においては一層重要だと思います。私の好きな本の一つ、Erich Frommの『愛するということ』にもこれに近い思想が提示されています(本書でも言及がありました)。
おわりに
以上、パリへの移住を機に第一の転換期を通過した話について書きました。しかし、これで全ての不安が解消したわけでは全くありませんし、第二、第三の転換期に関してはまだ何もわからない状態です。同じような悩みを抱えている方ともっとオープンに話ができるといいなと思います。
Written by Shion Honda. If you like this, please share!