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読んだ本とともに2025年を振り返る | Hippocampus's Garden

読んだ本とともに2025年を振り返る

January 05, 2026  |  11 min read

2024年に読んだ本』に引き続き、2025年を簡単に振り返りつつ、読んだ本をまとめます。

2025年を振り返ってみると、変化の多い1年でした。

  • コーディングエージェントの性能が飛躍的に向上しました。2024年までは単体テストの作成などごく小さいタスクを切り分けて渡していましたが、今では小さな機能であれば丸ごと任せられるようになりました。大きなタスクでも、プランモードをうまく使えば大きな介入をせずに開発を進められる場面が増えました。ちなみに、仕事ではCursor、プライベートではCodexを使っています。
  • 仕事の内容もこれに合わせて変化しました。機能開発やパフォーマンス改善、デバッグなどは積極的にAIに任せ、自分は設計がより重要なコア部分の開発に時間を割くようにしました。また、全社のAI戦略策定への貢献や、勉強会やテックブログを通した知識の共有など、開発以外の仕事にも時間を充てるようになりました。炭鉱のカナリア1よろしく、ソフトウェアエンジニアにとっては「変容か死か」という厳しい時代になりましたが、現時点では挑戦的な状況を楽しみながら新時代に適応できているように思います。
  • ジュニアエンジニアのメンタリングを始めました。プライベートでも一児の父となり、自分の人生の中に「次の世代の育成」という新しいテーマが生まれました。
  • 5月ごろから個人開発を始めました。AIのおかげでアイデアを素早く形にできるようになり、とても楽しいです。2026年中にリリースし、できれば収益化まで行けたらいいなと思っています。

読書に関しては、骨太の本や英語の技術書をいくつか読めたのは良かったのですが、余暇の大部分を個人開発に使うようになったため、読書できるのがほぼ通勤時間だけになってしまいました。その結果、手を動かしながら読むタイプの本は進めづらく、2025年後半はKindleで小説を読むことが多かったです。

以降、仕事関係の本5冊とそれ以外で特に良かった本6冊を紹介していきます。みなさまの感想やおすすめの本も、ぜひコメントなどで教えてください。

コンピュータ

AI Engineering

AI Engineering: Building Applications with Foundation Models』(Chip Huyen 著、O’Reilly Media、2024年)は、LLMをはじめとする基盤モデルの波が単なるプロトタイプづくりから製品開発フェーズに移行しつつある現在、基盤モデルを活用して信頼性の高いアプリケーションを構築する方法を学ぶのに良い一冊です。単なる技術解説にとどまらず、本番プロダクトを作るという目的を念頭に置いたうえで、モデルの選定から評価、プロンプト設計、ファインチューニング、スケーリングまで、基盤モデルを製品に組み込む流れを実践的な観点から説明しています。詳しくは、著者による本からの抜粋私の書評記事をご覧ください。

2025年11月に邦訳も出版されました

Database Internals

Database Internals: A Deep Dive into How Distributed Data Systems Work』(Alex Petrov 著、O’Reilly Media、2019年)は、データベースの教科書の決定版と言える本です。

私は分析用のSQLは新卒で就職してから日常的に書いているものの、その範囲は参照系の操作にとどまっており、高速化やトランザクションといった概念についてはパターン認識的な理解しかできていませんでした。これはソフトウェアエンジニアとして少し心許なかったので、一念発起して内部構造を勉強するために本書を手に取りました。具体的にはB木、シャーディング、コンセンサスなどの概念を扱います。こちらも本ブログにて書評を公開していますので、興味があれば参考にしてみてください。

2021年に邦訳が出版されています

コンピュータの構成と設計

コンピュータの構成と設計 第6版』(David Patterson, John Hennessy 著、成田光彰 訳、日経BP、2021年)は、通称「パタヘネ本」として知られる、現代のコンピュータの動作原理をハードウェアレベルから丁寧に解説してくれる定番教科書です。

私は低レイヤについては「大学の講義で習ったような……」というレベルのあやふやな理解しかしていなかったので、体系的に学び直そうと思って手に取りました。こちらも本ブログにて書評を公開していますので、興味があれば参考にしてみてください。

ビジネスとキャリア

事実はなぜ人の意見を変えられないのか

事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(Tali Sharot 著、上原直子 訳、白揚社、2019年)は、データやロジックと説得力は別物であるということを、認知神経科学の観点から解説する本です。

反ワクチンの人に、子どもにワクチン接種を受けさせるよう説得するとしましょう。「ワクチン接種と自閉症に因果関係はない」という事実をもって相手の信念を否定しようとしても、相手は頑なになるだけです。認知能力の高い人であれば、自分にとって都合のいいデータを引っ張ってきて自説を強化してしまいます(確証バイアス)。このような状況では、「ワクチンは大きな病気から子どもを守る」という共通の目的からアプローチし(感情への寄り添い)、まずは「この人の話を聞いてやってもいい」と思ってもらうことが大切です。

本書で語られている内容は、さまざまな場面で活用できます。上司に提案を通す、子どもに野菜を食べてもらう、有権者に特定の候補者を支持してもらうなど。事実を並べるだけでは動かない局面で、「相手が大切にしている価値」や「共有できる目的」から入り直す、という発想が手に入ります。

パリの国連で夢を食う。

パリの国連で夢を食う。』(川内有緒 著、幻冬舎、2017年)は、著者がUNESCO勤務のためパリに移り住んだ5年半の体験を綴ったエッセイです。

妻がパリの国際機関にてインターンをすることになり、その後も国際機関でのキャリアを目指すことになったので、具体的なイメージを掴むために読みました。それまでは国連で働くということについて「グローバルエリートでかっこいい」という漠然とした印象しか持っていませんでした。しかし、本書を読み、妻からの話を聞くにつれ、巨大な官僚組織に国際政治と個人の思惑が絡みあったカオスな環境であるということがわかってきました。

著者のオープンマインドでフレンドリーな人となりやユーモアたっぷりな文体が気持ちいいので、国際機関で働く人もそうでない人も、肩の力を抜いて読める一冊です。各々異なる状況でパリに暮らす日本人たちにインタビューをした『パリでメシを食う。』もおすすめです。

その他

誓願

誓願』(Margaret Atwood 著、鴻巣友季子 訳、早川書房、2020年)は、『侍女の物語』の続編で、独裁国家ギレアデ共和国の崩壊前夜を三人の女性の視点から描きます。1人目はギレアデの冷酷な権力構造の内部に生きるリディア小母、2人目はギレアデで生まれ育ちその価値観を内在化させる少女アグネス、3人目はカナダで自由に育ったデイジーです。本作は三者の日記が交互に語られる形式を取りますが、3人はやがて打倒ギレアデという共通の目的の下に交わり、シスターフッドの物語となります。

『侍女の物語』の原著は1985年に発表されディストピア小説の代表作と評されるまでになりましたが、続編である『誓願』はそれから34年が経った2019年に出版されました。その背景には2017年にHuluで放送開始されたドラマ版が注目を集めたことや、現代の政治状況において同作が取り上げられる場面が増えたことがあるとされています。

著者は本作について、「実際に人間の歴史上で起きていないことは何一つ書いていない」と述べています。実際、アフガニスタンでは女性の教育が制限されているし、2021年には米国で議会襲撃事件というクーデター未遂がありました。2022年にRoe v. Wade判決が覆されたのも、女性の権利拡大からの揺り戻しを象徴する出来事でした。そして最近は各国でフェミサイドが社会問題化しています(フェミサイドをテーマにしたNetflixのドラマ『Adolescence』が世界的流行になりましたね)。このようなリアリズムを持ったフィクションでありながら、本作は鬱屈とした前作と打って変わってスパイ小説のようなエンターテインメント性があり、ディストピアのなかに希望が灯る瞬間には胸が熱くなりました。

BUTTER

BUTTER』(柚木麻子 著、新潮社、2020年)は、木嶋佳苗被告が起こした連続殺人事件に着想を得たサスペンスです。モデルとなった女性・梶井真奈子は中年男性から金を巻き上げた末に連続殺人の容疑で逮捕されますが、作品は事件そのものよりも、彼女と面会する週刊誌記者・里佳の心の変化を中心に描きます。

里佳は取材の条件として彼女が指定した料理を実際に作って報告するうちに、これまで体型を気にして低カロリー食ばかり食べていた自分の生活と価値観を見直すようになります。こうして始まった不思議な関係はエスカレートしていき、里佳は「もしかして正しいのは梶井のほうなんじゃないか」と思い始めるようになり、周囲の人間との関係も変化していきます。

濃厚な料理描写とともに女性が背負わされる「女らしさ」の重圧を描いたユニークなサスペンスで、グローバルヒットになったのも納得です。Netflixなどでドラマ化したら一層流行りそうな気がします。

イン・ザ・メガチャーチ

イン・ザ・メガチャーチ』(朝井リョウ 著、日経BP、2025年)は、日本で広がる推し活文化とファンダム経済を描いた小説です。

独白形式だった前作『生殖記』(個人的にはハマれませんでした)からいつもの群像劇スタイルに戻った本作は、ファンダムの仕掛ける側、仕掛けられる側、かつてハマっていた側の3者の視点で物語が進みます。推し活という一見非合理的な行動に人々がのめり込んでいく過程が臨場感たっぷりに描かれています。また、裏テーマである中高年男性の「友達いない問題」もまさに自分の将来のようで、クリーンヒットでした。

私は推し活という行為が長らく理解できず、宇佐美りん著『推し、燃ゆ』もピンと来なかったのですが、本作で腑に落ちました。ちなみに、タイトルにある「メガチャーチ」について、私は本作で初めて知ったのですが、本家のメガチャーチもかなりすごいのでぜひYouTubeなどで検索してみてください。

YABUNONAKA

YABUNONAKA―ヤブノナカ―』(金原ひとみ 著、文藝春秋、2025年)は、「告発」というこれまた現代的なテーマを扱った群像劇です。ある女性が過去の性的搾取を10年越しに告発したことをきっかけにさまざまな事件が起き、遡及的な糾弾や私刑といった正義と加害の境界が曖昧になる様子、また各登場人物が自分にとって都合のいい真実を作り上げる様子が深く掘り下げられます。

金原作品は、声に出して読みたい美しい日本語が多数登場するのも個人的に好きな点です。「男って、性欲があるうちは有害なクズで、性欲がなくなったら有害なゴミだよね」なんてフレーズに出会える小説を他に知りません。

ナチスは「良いこと」もしたのか?

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(小野寺拓也、田野大介 著、岩波書店、2023年)は、ナチス政権の政策について「アウトバーン建設や失業対策、家族支援など良い面もあった」などとする通説を歴史的文脈に照らし合わせて検証する本です。個別の政策の検証内容については実際に読んでいただくとして、本書から学べる重要なメッセージは「解釈を持ち込まず、無色透明な尺度によって神の視点から歴史を叙述することはできない」ということです。歴史は事実・解釈・意見が不可分であり、解釈を抜きに良い・悪いを語ると結論を誤ると強調しています。この忠告は、昨今のポストトゥルースが跋扈する世の中においていっそう重要です。

科学的根拠で子育て

科学的根拠(エビデンス)で子育て 教育経済学の最前線』(中室牧子 著、ダイヤモンド社、2024年)は、教育経済学者の著者が子育てや教育にまつわる通説をエビデンスに基づいて検証した一冊です。

教育に関してはさまざまな通説があります。私立の学校に入れる、スポーツをさせる、習い事をさせる、などなど……。新米の親としては、こういった無数の選択肢にめまいがしてしまうほどです。しかし、これらの「やった方がいいとされていること」にはどの程度のエビデンスがあるのでしょうか。本書は、教育経済学の論文のメタアナリシスを通してこれらの質問に答えます。

個人的に確認できてよかった点は、幼児期は認知能力よりも非認知能力(忍耐力、集中力、社会性など学力テストでは測られない能力)の育成に集中した方が良い、というものです。非認知能力は10歳以降に伸ばすことが難しい上、認知能力を伸ばすのに複利で効きます。日本の教育政策も非認知能力の観点が軽視されがちと評しています。

一方、マクロとしての教育政策ではなく一人の親として本書を読む場合は、平均処置効果average treatment effect, ATE)だけに囚われてはならないところには注意が必要です。子どもの特性によって最適な教育というのは当然変わってくるので、親としてはその子の特性を見極めるのも重要ではないかと思いました。


  1. この研究で指摘されているように、2025年はAIの雇用への影響が明確に見えるようになりました。


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Written by Shion Honda. If you like this, please share!